電通で入社1年目の方が自死された事件について、労災認定されたことが話題になっている。その方のTwitterの投稿を見るとそれは凄まじく言い尽くせない悲しみを感じた。
また以前ワタミで自死された新入社員の過労死認定の訴訟を行った遺族の方が、和解金を使って「ブラック企業」との訴訟費用を援助する基金を設立されたとのニュースもみた。
自分自身を振り返ると、かつては自死された方ほどではないが、徹夜も辞さないとの姿勢で働いていたことがある(30代前半ぐらいまでだが)。また周囲に対してもそのような姿勢が望ましいとの考えを持っていたことがある。
結論から言うとそれは誤っていた。
自死された方との違いは、「頑張っている自分」に酔っていたのと、なんだかんだ(仮眠とか、ちょっとしたサボりで)休んでいたからだと思う。
毎日16時間からそれ以上働いていたが、客観的に見ると本当に生産的なことができたのは8時間以内で、もっというと最高の集中力を発揮できたのは5、6時間だったと思う。
残りの時間は、何かを待っていたり、無駄な会議(ほんとうなら自分は必要のない会議)に参加したり、実質的には何もしていなかったように思う。PCの画面をぼーっと眺めているだけの時間もあったように思う。無理に長時間何かをしようとしても思考力が低下しているので、ミスも多くなりミスをカバーするためにさらに時間を要するという悪循環に陥った。
ITの(あるいは日本の)世界では、何も生み出さなくても頑張っている姿勢を示すことが大事という風潮があるように思う。本来合理的な活動であるはずの会社(あるいはプロジェクト)において非合理的、非科学的な行動規範を求められるのは馬鹿げている。
(長時間労働を強要し、ましてや残業時間のごまかしなどが行なわれている。ブラック企業とか聞こえよくいうが、違法行為である)
なので30代後半からはなるべく長時間労働をしないようにしていたが、それでも周辺からのプレッシャーと自分への過信と(信頼されていることに対しての)自己満足で長時間労働してしまったことがある。結果的には体調を崩してしまった。崩した結果、プロジェクトを休んだりしてしまった。休みを含めた平均労働時間は、8時間を確実に切っている。ならば最初から長時間労働しないほうがよかったのではないかと思う。休めば急に人がいなくなるので、代わりの人を探したり、代替要員の新たな学習コストもバカにならない。
※補足すると思い返すと「信頼」とは聞こえが良いが、実際には「お前が働かないと俺が困る」という利己主義に基づくもの。
無能な管理職で「プレッシャーをあたえると生産性があがる」という奇妙な考えを持つ人がいる。そんなデータはどこにもない。
おそらく「火事場の馬鹿力」のような考えなのだとは思うが、ITプロジェクトは、日々続く普通の経済活動であり、「極限状況において、人間がごく稀に発揮する力」を期待するのは無能の極みである。※火事場の馬鹿力も客観的なデータがあるのかわからない。都市伝説ではないかと思う。自分自身は、高いプレッシャーの環境下でいつもより良いパフォーマンスを示せたことは無い。(低下するほうが多かったように思う)
オリンピックのトップアスリートは、いかにリラックスするかを常に考えている。
プロジェクトで生産性を向上させるには、いかにコミュケーションをとっていくかの創意工夫が必要と考える。いわゆるアジャイル方法論が注目されるのもコミュニケーションを重視する方法論であるからだと思う。
ITに関わる方で(それ以外の業種の方でも)、ぜひ読んでおいて欲しいのが、
人月の神話(フレデリック・ブルックス)
ピープルウェア(トム・デマルコ)
アジャイルソフトウェア開発宣言※最後の2行をちゃんと頭の隅に置いておくこと
である。いかに長時間労働が、クオリティを低下させるかが見えてくると思う。自分はこれらを勉強することによって間違った考えを修正することができたように思う。特にトム・デマルコは自分にとっての神様みたいな存在(会ったこと無いけど著作を通じて)。
最後にトム・デマルコの著作 デッドライン(これも名著)から引用しておく、
”プレッシャーをかけても思考は速くならない”
至言であると思う。